IoTの可能性 ~斎藤ウィリアム浩幸 さんの「IoTは日本企業への警告である」

だいぶ前に頂いた斎藤ウィリアム浩幸 さんの「IoTは日本企業への警告である」を読んでみた。IoTの可能性と表裏一体で重要となるセキュリティへの心構えについてわかりやすくまとめた本だが、IoT推進派の私としては、涙が出そうなくらい嬉しくて元気が出る内容が散りばめられていた。

というのも、第1章で、世界最大のフィルム会社でありデジカメを生んだ企業でありながらデジカメに市場を奪われ倒産したコダックの教訓とHype Cyecleを挙げながらIoTの今後の発展可能性を示唆している。

1975年にコダックの若き研究者がデジカメを発明。そのときは1万ピクセルの性能しかなかったため「おもちゃ」として経営者に否定される。その研究者は「ムーアの法則」を挙げて、200万ピクセル(人間が目で見て写真とデジタルの差を感じなくなるレベル)まで技術が追いつくのに時間がかからないはずと抵抗したとのこと。2012年、コダックはその「おもちゃ」にやられて倒産。

Hype Cycleは新しい技術が、過大に評価され期待のピークを迎えると、市場が技術の未熟さに気づいて停滞期に入るが、それでもあきらめずに開発を続ける企業・技術者により技術が市場に普及していくという技術のカーブを描いたもの。ガートナーによれば、2015年はHype Cycleにおける期待のピークにIoTは至ったのだそうだ。

そう、きっと今から本当のIoTが普及するフェーズに入るはず。愚痴ではないが、「第四次産業革命は今までに何を生んだのか?」「マネタイズできたモデルを見たことがない。」「具体的な成功事例は何か?」「もう掲げるべきテーマではないのではないか」と問われ攻められ続け、落ち込んでいた今日この頃だったが、諦めてはいけないと思いなおせた。

新しい技術・考え方というのは、思ったほどすぐには普及しないが、思ったほど悪いものでもないのだろう。最初の自動車が生まれたときも、最初のiphoneスマートフォンの概念が生まれたときも、誰も今のような役割を果たすなんて想像していなかった。ひっそりと世の中に産声を上げた。期待のピークを迎えたIoTの真のNew Modelは既に世の中のどこかに生まれているのかもしれない。それを組み合わせて生み出し、市場を席捲するのは誰なんだろう。

 

この本を読んで面白かったもう一つの点は、IoTと3Dプリンティングを表裏の対概念として表現していたことだ。IoTがアトム(原子)からエレクトロン(電子情報)に変換する機能とすると、3Dプリンティングは、エレクトロンをアトムに戻す機能。

古い機種の飛行機のパーツの交換部品や、戦闘機の部品(砂漠に落ちてもその場でパーツ製造可能に)も3Dプリンティングで製造。カスタマイズした製品もコストをかけず個人が製造できることになる。これは、モノを売るのか、モノを製造するためのデータを売るのか販売の概念を大きく変える可能性があると示唆しており、よく言われていることとは言え、うまく表現されていて面白かった。

 

セキュリティについては、私は本当に不案内だが、「セキュリティの3角形」としてSecurity、Usability、Costを挙げそのバランスの重要性を説明するとともに、「セキュリティの十戒(Confidentiality、Integrity、Availability、Authentication、Authorization、Accountability、Non Repudiation、Privacy、Diversity、Resilience)を一つ一つ示し、後付けでセキュリティ対策するのでは不十分で、システム(製品・サービス)の企画・設計のタイミングから組み込むことが必要と説いている。

 

あ、もう一つ。IoTの現在の活用事例としてロールスロイス、キャタピラ、コマツなど(モノ売りからレンタル・リースの形態によるサービス売りへ)を挙げ、高価なインダストリアルプロダクトの方が普及が早いとしている。

だとすると、例えば、日本が競争優位を失いつつある電池分野において、無線給電などを活用してバッテリー供給をサービスとして売るようなモデルは考えられないだろうか。

次のステップとして、家電製品などについて、製品ライフサイクルを把握して、全電化製品をsharingして、その省エネ、リサイクル、リコールその他をまとめてサービス提供するビジネスモデルなんて考えられないだろうか。

など夢が膨らむ。

モノとサービスの融合、エンドユーザーを入口とする異業種参入による新サービス創造がカギ。日本も技術を尖らせることばかりに逃げないで、もう少し隣の芝生もしっかり見てその脅威と協創可能性を冷静にアセスする必要があるのかもしれない。その時の軸は、目の前の顧客目線ではなく、エンドユーザーの視点なのだろう。

f:id:ChiGa:20161106183559j:plain